「巨大化」を続ける恐竜がいた一方で、「小型化」していく恐竜も一部にはいた。
小型化(矮小化)していったのは、主に「島」などに住んでいた恐竜たち。彼らは島という「資源の限られた環境」に適応するために、身体のサイズが小さくなるように進化していったと考えられている(島與性・矮小化)。
この事実に初めて気がついたのは、恐竜男爵「ノプシャ」。
男爵との名が示すように、彼は実際にトランシルバニア(オーストリア・ハンガリー帝国)の貴族でもあった。貴族とはいえ、彼は宮廷に座していたばかりではなく、化石探しの冒険に明け暮れたり、第一次世界大戦時にはスパイとして暗躍していたという極めて活動的な人物だ。
宮廷生活を逃れることがよほど楽しかったのか、羊飼いの粗野な服に着替えたノプシャは、何ヶ月も、時には何年もの間、山中に姿を消したりもしていた。そのお供をしたのが、秘書兼恋人のドゥーダ。恐竜男爵は男色家でもあったとのことだ。
ノプシャの「恐竜が小型化していった」という説は、当時の研究者たちの固い頭には受け入れがたい斬新さがあった。そのために、「小さい化石は、単に『若くて成長途上』の状態にすぎない」と一蹴されてしまう。
そこでノプシャが考え出したのが、恐竜の骨を輪切りにして内部組織を解析する手法。樹木の年輪を数えるようにして、恐竜の年齢を推定したのである。
この解析の結果、ノプシャが宮廷の「裏庭」で見つけた小さな恐竜化石が、しっかりと「成体」に達していたことが確認された。つまり、恐竜の「小型化する進化」が証明されたのである。ちなみに、ノプシャが始めたこの解析方法は、現在でも標準的な手法として活用されている。
恐竜男爵ノプシャの化石探しの放浪は、第一次世界大戦が終わるとともに、その自由を奪われていく。
オーストリア・ハンガリー帝国が敗れたことにより、自領のトランシルヴァニアがルーマニアに割譲されて、所領と収入を失ってしまったのだ。それでもノプシャは今まで集めた恐竜の骨を切り売りしながら、自由奔放な旅を続けていた。
しかし、ついに貧窮の極まった恐竜男爵は悲しい決断を下す。恋人ドゥーダのお茶に睡眠薬を盛り、その頭を銃で撃ち抜き、そして、次には自らのこめかみを…。
最近の発見は、恐竜男爵ノプシャの科学的見解が「驚くほどの先見性」を備えたことを明らかにしている。
また、島に取り残された恐竜たちが「小型化」していったというノプシャの発見は、われわれ島国に住む日本人とも無縁ではないように感じられる。われわれの体格は欧米の人々よりもずっと「小型」なのだから…。
大きくなることばかりが進化ではなく、時には「小さくなる」という進化の方向性を示したのは、ノプシャの偉大なる功績である。それは、一方向にしか進み得ないと考えがちな西欧史観に異議を唱えた一石でもあったからだ。
われわれ日本人とて、決して劣っているわけではないのである。たとえ欧米人よりも小さいとはいえども…。
優秀なコンピューターほど、どんどん小型化を続けているではないか。
ソース:日経 サイエンス 2012年 01月号
「トランシルバニアの恐竜男爵」
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