北海道の世界遺産「知床(しれとこ)」
その成り立ちは、両手でテーブルクロスに皺(しわ)をつくるのに似ている。
左右、手の先を内側に向け、すれ違うように動かす。すると、テーブルクロスに皺がよる。その盛り上がった部分が、知床・国後(くなしり)・択捉(えとろふ)のように綺麗に並ぶのだ。
テーブルクロスでつくる知床・国後・択捉 |
テーブルクロスに加えた手の力、じつはプレートの動きである。
100万年前、太平洋プレートが北米プレートの下に潜り込みはじめた。すると、その力に引きずられ、北米プレートが東から西へと移動。
北米プレートが太平洋プレートに引きずられる |
その結果、海底が皺(しわ)のように押し上げられ、陸地になった。
盛り上がった部分が陸地に |
こうして知床半島、国後島、択捉島が誕生。
成り立ちが同じだからこそ、仲良く並んでいるのである。
「知床と国後、択捉はいわば兄弟みたいなものですね」
知床・国後・択捉、3兄弟 |
ご存知のとおり、知床半島には魚介が豊富で、その種類は100種類以上。港町・羅臼(らうす)は「魚の城下町」と呼ばれるほどである。
その豊かな生態系をはぐくむ理由の一つが「流氷(りゅうひょう)」。知床に漂着する流氷には、栄養たっぷりの植物プランクトンがたくさん付着して来る。
知床をはぐくむ流氷 |
凍てつく北の海でつくられた流氷は、潮の流れとともに北海道へと南下する。
その流れゆく流氷の受け皿となるのが、北海道の伸ばした腕たる、知床半島である。もし、知床半島が流氷を堰き止めなかったら、魚のエサがたっぷりと付いた流氷は、太平洋の彼方へと流さ去ってしまうだけだったであろう。
「流氷がここ(知床半島)で留まるから、植物プランクトンが、それを追って小魚が、それを追って大きな魚が。それをクマが食う、ワシが食う。陸上と海がつながる、と。がってん、がってん」
流氷の受け皿となる知床半島 |
この海域で多種多様な魚がはぐくまれるのは、もう一つ理由がある。
それは「深さ」。
さきほどのテーブルクロスの例をみると、盛り上がった皺(しわ)の溝は、とても深くなっていることがわかる。
シワと同時にできる、深いミゾ |
知床・国後・択捉の3兄弟が、陸地として盛り上がったとき、それらに挟まれた海は逆に深くなった。
知床と国後のあいだの海は、深いところで2,000mもある。
知床と国後のあいだの海は、じつに深い |
陸地から急激に落ち込む海。
その結果、狭い海域に「浅瀬」と「深海」、まったく異なる性質の海が、知床と国後のあいだで共存することになった。
「だから、深海の赤いキンキだとか、浅いところの魚まで全部とれるわけですね」
浅瀬と深海が共存 |
「それもこれも、火山のおかげなんです」
100万年前のプレートの動きによって押し上げられた海底には、そのズレから割れ目が生じた。そこからマグマが噴き出し、徐々に盛り上がっていく。
割れ目からマグマが噴き出す |
海底で噴出したマグマは、冷たい海水によって急速に冷却される。
そしてできるのが「水冷破砕岩(すいれいはさいがん)」。
急冷されてできる「水冷破砕岩」 |
まず形成されたのが、この水冷破砕岩でできた陸地である。
最初の陸地は、水冷破砕岩で形成された。 |
水冷破砕岩の特徴は、その「もろさ」。
「もろくも崩れますね」
海で急に冷やされたため、マグマが粉々になっている。
「もろいから風化がはやくて、土になりやすい。そうすると耕作できる、作物ができる」
土化しやすい水冷破砕岩 |
そうした土壌のうえに、さらなる噴火がおきる。
さらなる噴火 |
地上で噴火したマグマは、空気によって「ゆっくり」冷やされる。
するとできるのは「硬い岩石」。
「これは水冷破砕岩とはまったく違う。風化もしないし、ましてや耕作にはまったく適さない」
知床半島をおおう、もろい水冷破砕岩と、かたい溶岩 |
元々もろい水冷破砕岩は、時間がたつと土になるので、農地として開拓することができた。大正時代からはじまった開拓は、ウトロの農地や住宅地となった。
一方、あとから噴火してできた硬い溶岩地帯は、どうしても開拓することができなかった。
「世界遺産のこっち側には溶岩が流れて、あっち側には流れなかった。その境目が世界遺産との境目にもなっているんです」
世界遺産との境目は、溶岩の境目 |
出典:NHKブラタモリ「知床」
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