2012年9月30日日曜日

ゾウが乗っても破れないサランラップ



もし、ゾウが乗っても破れないサランラップがあるとしたら?

もし、そのゾウが立てた鉛筆の上に乗って、全体重を一点に集中させたとしても、そのサランラップが破れなかったとしたら?

そんな奇跡のサランラップが「グラフェン」という素材なのだという。



ある日、こんなツイートが流れた。「サランラップ一枚の厚さのグラフェン・シートを突き破るためには、ゾウ一頭を鉛筆の上に立たせる必要があるだろう」

このツイートのネタ元は、ジェームズ・ホーン教授(コロンビア大学)だった。教授いわく、「グラフェンはこれまで測定されたうちで『最も強靭な素材』であり、構造用鋼より約200倍も強い」

「炭素」の原子からできているというグラフェンは、「丸めればゼロ次元のフラーレンに、巻けば1次元のナノチューブに、重ねれば3次元のグラファイトになる」そうだ。



その素材の素晴らしさもさることながら、一本の鉛筆の上に巨大なゾウを立たせようとした、無謀な表現こそが実に素晴らしい。

はたして、そのゾウは、体重7トンのアフリカゾウなのか、それとも4トンのアジアゾウなのか?






出典:日経 サイエンス 2012年 01月号
「至難の業 ある素材についての発言が提起する”重い”問題」

2012年9月27日木曜日

ヒマラヤ山脈を一日で越えるインドガン


「インドガン」という鳥は、高度9,000m、すなわち民間航空機とほぼ同じ高さを飛ぶという。

世界最高峰のヒマラヤ山脈を飛び越えるのも、たった一日だ。彼らは高度6,000mくらいなら7〜8時間は飛び続けることができるのである。

こうした大仕事を成し遂げるとき、インドガンは通常の10〜20倍もの酸素を必要とする。並のガンであれば、まず耐えられない。



大きな翼と大きな肺、高密度の毛細血管網と酸素を取り込むしっかりとしたヘモグロビン…。彼らの強みを列挙することはできる。しかし、その仕組みまでは人智で解明できない。

それでも、彼らは飛んでいる。

ヒマラヤの空を悠々と…。



出典:日経 サイエンス 2012年 01月号
「ヒマラヤ越え インドガンの秘密」

2012年9月26日水曜日

胎盤さまさま


「大方の人々は『胎盤』のことを、出産後に不要になって捨てられるものくらいにしか思っていない。しかし実のところ、胎盤の出現は進化史上の大事件であり、これによってコウモリからクジラ、ヒトに至る現生哺乳動物の大半が生まれてきた。

胎盤があれば、母から胎児へ素早く効率的に栄養を送れるので、脳の成長が速まり、出生時の脳は大きく成熟したものになる。これらは全て、現在の哺乳動物に見られる複雑な行動や社会性を発達させる上で、大きな意味を持った。

こうした胎盤を持つ哺乳動物を『真獣類』という」



抜粋:日経 サイエンス 2012年 01月号
「新たなご先祖様」

ウイルスたちの成せる業


マイマイガの幼虫、つまり毛虫は、ある種のウイルス(バキュロ・ウイルス)に感染すると、やたらと行動的になる。普段、天敵を恐れて夜しか活動しないのに、そのウイルスに感染してしまうと、昼間でも葉っぱの上に出てきて、木のてっぺんまで登ってしまうのだという。

毛虫を必要以上の行動に駆り立てるのは、ウイルスの繁殖のためだ。危険な昼間に行動する毛虫は死ぬ確率も高い。毛虫が死ねば、体内にいたウイルスは散り、新たな宿主へと感染することができるようになる。

さらに、そのウイルスは「脱皮」を阻害する。というのも、脱皮させてしまうと、毛虫はしばらく何も食べなくなってしまう。それではウイルスに不都合。脱皮をさせずにおけば、ずっとエサを食べ続けてくれる。



また、やたらと交尾させる別のウイルスもいる。そのウイルスに感染した蛾は、交尾した直後でも、新たなフェロモンを出して、すぐに別のオスを呼び寄せる。盛んに交尾を繰り返させることで、ウイルスの拡大するチャンスも盛んに増えるというわけだ。



ところで、人間はそれらのウイルスには感染しないのか?

もしかしたら、すでに感染しているのかもしれない。現代の人々は昼間のみならず夜間もしきりと活動を続け、食べなくていいほど食べ続ける。さらには、年がら年中、交尾にいそしんでいたり…。

ウイルスにとっては、宿主がたくさん行動してくれるほうが、繁殖の機会は増す。もちろん、たくさん食べてくれた方がいいし、たくさん交尾してくれた方がいい。



はたして、現代人はウイルスに操られているのだろうか?

人間の欲望の正体は?






出典:日経 サイエンス 2012年 01月号
「毛虫を操るウイルス」

2012年9月24日月曜日

宇宙で太陽光発電をする夢


宇宙で太陽光発電を行い、その電力を無線で地球に送る。それが「宇宙太陽光発電」である。

太陽光を集めるのは、赤道上空3万6,000kmの静止軌道上にある人工衛星。宇宙での太陽光の強さは地上の「2倍」。日照時間は地上の「4〜5倍」。その発電効率は地上の「10倍」も高いとされている。



つくった電力はマイクロ波などに変換して無線で地球に送る。マイクロ波は雲をすり抜けることができるため、「送電ロス」はほとんどないという。

ただ、その精度が問題だ。送電角度が0.01°ズレるだけで、地上では1kmもズレてしまう。「ゴルフで4km先からホールインワンを狙うくらいの精度が必要」と篠原教授(京大)は語る。



発電コストはどうだろう? 長期間、安定稼働すれば、1kW時あたり8.5円と、水力や風力などの自然エネルギーよりも安くなるという。

しかし初期コストが巨額となる。およそ1兆2,400億円。残念ながら、この大きすぎる初期投資を負担できる電力会社や国家は、「今のところ存在しない」。あら?

ちなみに、必要資材を宇宙に運ぶには、日本の主力ロケットH2Aを1,000回も打ち上げる必要があるそうだ。あら?



それでも、篠原教授はこう言い切る。「長距離の無線送電に必要な技術はそろっている。今の技術水準でも宇宙太陽光発電所の建設は可能だ」。

ただ、大金と根気さえあれば…。





出典:日経 サイエンス 2012年 01月号
「宇宙太陽光発電 研究が本格化」

独特な素粒子・ニュートリノ


「ニュートリノ」には、他の素粒子とは色合いの異なる面が多い。

たとえば、ニュートリノはプラス・マイナスの符号を持たない粒子であり、その「正」と「反」の区別がもともと明瞭でない。

また、素粒子は一種の自転(スピン)をしており、「右巻き」「左巻き」があるが、他の素粒子は粒子にも反粒子にも、それぞれ右巻きと左巻きがあるのに、ニュートリノは「左巻き・ニュートリノ」と「右巻き・反ニュートリノ」しか今のところ見つかっていない。



出典:日経 サイエンス 2012年 01月号
「粒子と反粒子の同一性を検証へ」

赤ワインは、本当に寿命を延ばすのか?


フランス人はなぜ、心筋梗塞にならないのか?

あんなに脂っこいモノばかり食っているというのに…。

これは「フレンチ・パラドックス」と呼ばれる現象である。



そこで注目されたのが「赤ワイン」。

フレンチ・パラドックスは、ポリフェノールの一種「レスベラトロール」に、その秘密があると考えられるようになった。

赤ワインに含まれる「レスベラトロール」が、サーチュイン遺伝子という「長寿」を司る遺伝子を活性化させるという結果が報告された。



ところが一方では、それを否定する論文も発表される。

「サーチュイン遺伝子(sirtuin)は、本当に寿命を決めているのか?」

赤ワインの効用や、いまやふたたび「樽の中」に戻された。





出典:WIRED (ワイアード) VOL.4 (GQ JAPAN2012年6月号増刊)
「赤ワインは魔法の秘薬か? 長寿をめぐる今時の知見」

2012年9月23日日曜日

尖閣モグラは悠々と



「これほど『謎』の哺乳類はいない」

それは「モグラ」。こんなに身近なのに…? 謎?



モグラの交尾や出産は、いまだ一例も世界で観察されたことがない。自然界においても、実験室においてもだ。

「分布」にも謎が多い。なぜか「南半球」にはまったくいない。日本では、「北海道」にまったくいない。北海道より北のロシア、そして南の青森にもモグラはいるのに、なぜかその間の北海道にはいないのだ。



ちなみに、今一番ホットな「尖閣諸島」にもモグラは住んでいる。それを「尖閣モグラ」という。

「モグラにはまった」というモグラ博士、川田伸一郎氏は残念がる。「是非とも現地に行きたいが…、こればかりは難しい」

幸か不幸か、尖閣モグラの謎ばかりは、しばらく解けそうもない。まあ、当のモグラにとっちゃ、知ったことでもない。陽の目を見ようなどとは、小さな鼻の先ほども思っていないだろう。

彼らは暗いところが大好きさ。

謎のままで結構さ。





出典:日経 サイエンス 2012年 01月号
「謎に包まれたモグラ その生き様を探る」

ハンバーグ一個、2,000万円なり


「お肉」は人工的につくれるのか?

そんなチャレンジをしているオランダの研究グループがある。「人口培養食肉」の開発だ。食肉の基とするのは「幹細胞」。それを無血清培地で培養するというもくろみ。

しかし、肉はつくれてもコストは莫大。

現在のところ、ハンバーグ一個が2,000万円だとか…。





「未来の『お肉』は食い放題?」

ゲノム解析一時間一万円なり


Googleの創始者、セルゲイ・ブリンが「パーキンソン病」にかかる可能性が高いことは、よく知られている。ゲノム解析の結果、判明したことだ。

そのため、ブリン本人が積極的に医療、バイオ分野に関わるようになったのはもちろん、その夫人もアメリカきってのゲノム解析サービス企業「23andMe」の共同創業者となっている(Google Venturesが支援)。



しかし、ヒトゲノム(遺伝子)の解読によって、病気の原因はどれくらいわかるようになったのだろうか?

たとえば、自閉症の原因は「遺伝子の異常」だと考えられているが、原因となる遺伝子は未だに見つかっていない。

ちなみに現在、ヒト1人のゲノムを1万円、1時間で解読することも夢ではないという。





出典:WIRED (ワイアード) VOL.4 (GQ JAPAN2012年6月号増刊)
「自閉症とDNA」

2012年9月22日土曜日

自らの肺をつぶすアシカ


なぜ、アシカは「潜水病」にかからないのか? 300mも潜水するというのに…。

人間であれば、「減圧症」という潜水病にかかり、時には死んでしまう。それは、水中深くいる時に、その水圧で血液中の「窒素」が圧縮されており、急に浮上すると、その縮んでいた窒素が急速に膨張してしまうためだ。



さっそく、アシカに機器を取り付け、潜ってもらおう。

するとそのアシカ、水深225m付近で、意図的に「肺を潰していた」。それは、血液に取り込まれる「窒素」を遮断するためだという。ちなみに、潜水をする他の哺乳類でも同様に、肺を縮めることが知られているそうだ。

肺を潰したまま、水深300mまで潜水していったアシカ。今度は一転、再浮上。

すると、水深247m付近で、今度はふたたび肺を元に戻していた。



自然界には、アシカよりも深く潜水できる動物はたくさんいる。

たとえば、皇帝ペンギンは水深500m以上、ゾウアザラシは水深1,500m以上だ。

潜るようにできている動物たちは、そもそもの身体のシステムがそうなっているということだ。



出典:AFP
「アシカの潜水病を防ぐメカニズムを解明、アメリカ研究」

無知を知ったDNA解読


世界初のヒトゲノム解読には、30億ドル(2,400億円)を超える予算と、10年もの歳月がつぎ込まれた。

しかしその結果たるや、ヒトゲノムの実に98%が「わけのわからない謎の領域」だったという事実のみである。



ゲノムというのは、DNAに刻まれた生命の情報のことであり、そこには身体の材料となる「タンパク質」の作り方が記されていると思われていた。

確かにそうだったのだが、タンパク質の作り方を記している部分は「たったの2%」。そして、残りの98%の領域からは、60年もの間、単なるDNAのコピーとしか思われていなかった「RNA」が生み出されていたのである。



ある仮説によれば、DNAは情報を保管しておくための「図書館」にすぎず、本当の主役はRNAだということになる。

DNAは情報の記憶しかできないが、RNAはその記憶に加え、タンパク質のように酵素として働くこともできる。いまはまだ分からないことの多いRNAだが、その働きの多彩さはDNAの及ぶところではない。

それゆえ、最初の生命を生み出したのはDNAではなく、RNAだったのではないかという「RNAワールド仮説」なるものも提唱されている。コピーだと思われていたRNAが実は元データで、DNAの方がバックアップだったのか?



DNAさえ解読すれば、生命の神秘が明かされるとおもっていた人類。

ところが、それは単なる入り口にすぎなかったようだ。

まだまだ未知のRNA大陸、その探検は口火を切ったばかりだ。



出典:WIRED (ワイアード) VOL.4 (GQ JAPAN2012年6月号増刊)
「生命の『コード』は謎だらけ」

2012年9月21日金曜日

「シェアしたいこと」があったんだ。Tumblr


「ぼくは作家じゃない。書けないんだ。

有名ブロガーのように楽しめない。でっかい空白のテキスト・ボックスを前にして、いつも躊躇していた。

だけど、ぼくには『シェアしたいこと』があったんだ」



「Tumblr(タンブラー)」の生みの親「デイヴィッド・カープ(25歳)」



Tumblrがローンチしたのは2007年。「ブログを簡単にする」という文句で売りだされた。その時、デイヴィッド・カープは19歳。

あれから5年、そのアクセス数は今や「WikipediaやTwitterをも凌いでいる」。Tumblrを越えるのはFacebookのみ。オバマ大統領も昨年10月からTumblerを使って選挙キャンペーンを開始している。ちなみに、「フォロー」や「リツイート」などは、Twitterの2年前にTumblrが開発した機能だ。

Microsoftの上級研究員、ダナ・ボイドはこう言う。「TumblrがFacebookを補うような存在になったのは、TumblrにはFacebookのような押し付けがましい『わたしたちは友人じゃないといけない』的なものを必要としなかったからです。Facebookに不満を募らせていた人は大勢いたのです。」



「カッコいい静電気防止用のブレスレットをして、一日中コンピューターを分解する人たちに憧れまくっていたんだ」というカープは、ティーンエイジの時に独学でHTMLを学んだ。彼の野望が「多くの高校生たちとは違っていた」こともあり、カープは15歳で学校を中退している。

「ひょろ長くてシャイな小僧」。16歳のカープを、ジョン・マロニーは思い出す。「彼はたった数時間で、美しくて考えもつかないような機能をもったミニサイトをつくってしまった。ホントに16歳?って感じだったよ」



2010年11月、カープは社員を増やすことを考えた。その当時、Tumblrには14人ほどのスタッフしかいなかった。

ところが、Facebookのマーク・ザッカーバーグはそれに反対した。「YouTubeが16億ドルで買収された時、スタッフは16人だったじゃないか。頭を使うことを忘れちゃいけないよ」と言って。



「ボルノは、かつて全てのトラフィックの10%を占めていたけど、今では約3〜5%だよ」とカープは言う。「規制するつもりもないしね。Tumblrはポルノにうってつけのプラットフォームだと思うし、ポルノを道義上否定する考えも持ってないから」

25歳の早熟な天才の見据える未来は?





出典:WIRED (ワイアード) VOL.4 (GQ JAPAN2012年6月号増刊)
「A view from the top」

自分が美しいと思うものへのこだわり。Pinterest


Pinterest(ピンタレスト)の共同創業者「ベン・シルバーマン」曰く。

「ぼくは医学生だったんだけど、やりたいことを追求するために中退して、Googleに入ったんだ。

その後、Pinterestの開発を始めたんだけど、当時はリアルタイム・フィードが人気で、Pinterestのようにタイムレスなサービスは敬遠されていたんだ。

デザインも100万人のためではなく、まわりの10人にとって便利なことを心掛けた。そんなこともあって、スタートから9ヶ月くらいはユーザーが一万人に届かなかったけど、ユタ州であったデザイン・カンファレンスで注目されて火がついたんだ。

トレンドに惑わされずに、自分が美しいと思うものに固執して良かったよ!」





引用:WIRED (ワイアード) VOL.4 (GQ JAPAN2012年6月号増刊)
「See SXSW and die happy」

2012年9月20日木曜日

宇宙の96%は未知の物質・エネルギー


「恒星」というのは宇宙を構成する基本的な天体であり、われわれは20世紀の半ばまで、恒星もしくはその集団である銀河が、宇宙の物質の大部分を占めていると思い込んでいた。

ところが、恒星の運動を調べてみればみるほど、どうもおかしい。ニュートンの運動法則を適用すると、銀河には恒星以外の「まったく光を発していない物質」が大量になくてはならなくなってしまうのだ。



その存在するが目には見えない物質は、のちに「暗黒物質(ダークマター)」と呼ばれるようになった。

さらに調べていくと、どうやら宇宙は膨張を続けているだけでなく、その膨張は「加速」しているらしい。そして、その加速源と目されているエネルギーが、「暗黒エネルギー」とのことである。



20世紀半ばまでは知られてすらいなかった、暗黒物質と暗黒エネルギー。じつは、この両者で宇宙の96%を占めているらしいこともわかってきた(暗黒物質23%、暗黒エネルギー73%)。

なんとなんと、かつては宇宙の大部分を占めていると思われていた恒星と銀河は、宇宙のたった4%というマイナーな存在だったのである。





出典:日経サイエンス 2011年 12月号
「宇宙を読む」

人命の犠牲をともなうエネルギー生産


過去30年間における「発電にともなう死者数」をみると、先進国では「石炭」利用にともなう被害が最も大きい。とくに「採掘段階」が最も危険だ。石油と天然ガスでは、事故の大半が「配送段階」で起こっている。原子力では「発電段階」のリスクが大きい。



年間発電1億kWあたりの死者数(生産段階)

石炭………12.00人
石油………9.37人
天然ガス…7.19人
原子力……0.73人
水力………0.27人
風力………0.19人
太陽電池…0.02人

スイス、パウル・シェラー研究所調べ



しかし、人的被害で最も大きな部分を占めるのは、直接的な「事故」ではなく、より間接的な「環境汚染」によるものだという。たとえば、化石燃料を燃やす発電所から排出される「微粒子」による大気汚染は、深刻な健康被害をもたらしている。

肺炎(入院件数) 4,040
心血管障害(入院件数) 9,720
早死に 3万100
急性気管支炎 5万9,000
慢性気管支炎 60万3,000
仕事の欠勤 513万

以上、アメリカにおける1年あたりの平均件数。



出典:日経サイエンス 2011年 12月号
「エネルギーに伴う人的犠牲」



「左脳タイプ」、「右脳タイプ」はいない?


脳にまつわる神話

「左脳タイプ」と「右脳タイプ」がいる。



左脳は「論理的思考(言語)」に、右脳は「直感や芸術(空間能力や感情表現)」に使われるという主張は「作り話」だ。

脳画像研究においては、右半球(右脳)が創造活動の中枢だという証拠は得られていない。そして、脳は読字と計算なども含め、あらゆる認知機能において、左右両方の脳半球を使っている。

右脳・左脳を分けて考えたがるのは「心理学者」であったり、「教育者」であったりするだけで、決して科学者ではない。



出典:日経サイエンス 2011年 12月号
「それって本当? 脳にまつわる5つの神話」

「聞くだけ」ではなく、「演奏」を。脳の訓練


子供たちは「楽器」を熱心に練習すると、学業成績も良くなるかもしれない。

「タイガー・マザー」の著者であるチュアは、バイオリンとピアノを娘たちに毎日何時間も練習させたという。楽器の練習が注意力と作動記憶、自己コントロール力を高めるためだという。

ノースウェスタン大学のクラウスは、脳波データを用いた研究により、音楽の練習が生徒たちに「聞き上手」になることを示した。音楽の訓練を受けた人々は、教室などザワザワと騒々しい環境でも、話を抽出して聞くことができる。これは、音楽家がそうでない人よりも音をクリアに知覚できるのと同じである。



また、クラウスの別の研究では、「脳トレゲーム」よりも「ギター」が有益であることも示した。「ギターを演奏するには、曲を覚え、辛い練習を重ねて、何度も何度も再現を試みる必要がある」。

数年前、モーツアルトを聞かせるだけで乳幼児の知能を伸ばすというブームがあったが、それは最新の研究では否定されている。「何らかの効果を上げるには、実際に楽器を演奏して脳を鍛える必要がある」とクラウスは言う。

「演奏を練習すればするほど、音の微妙な違いを区別する能力が磨かれるのであって、聞くだけでは不十分だ」とのことである。



出典:日経サイエンス 2011年 12月号
「脳科学が教える 学び上手にする方法」

未知の海底世界

地球上で最も探査が進んでいない領域、それは「海底」だ。水深が平均4,000mにもなる海洋底は、月や金星とくらべても測量が進んでおらず、測量された海域は全体の15%にとどまる。

海底の動きを見ると、太平洋が「徐々に狭まっている」のが分かる。東太平洋海膨では一年に最大22cmずつ新たな海底が生まれている一方で、古い海底は周縁部の海溝からマントルへと沈み込んでいるからだ。

また、南北アメリカ大陸は一年に約25mmずつ、大西洋を隔てたヨーロッパやアフリカ大陸から「遠ざかっている」。それは大西洋の中央に位置する世界最長(2万km)の海底山脈・大西洋中央海嶺が、海底から東西に広がっているためだ。



出典:NATIONAL GEOGRAPHIC (ナショナル ジオグラフィック) 日本版 2012年 09月号
特別付録「世界の海底」

都市、バンザイ


「村では女性が夫と親族に従い、雑穀を粉にひいて歌うのが全てだった(Whole earth discipline)」

そんな時代は今や昔、2008年に農村人口と都市人口の逆転が起こり、いまや世界の都市人口が総人口の半分を超えている。20世紀に入り、都市人口は2億5,000万人から28億人へと10倍以上に急増したのである。



かつて、アメリカの建国の父たちは、都市を「貧困と犯罪、環境汚染、不健康の中心」であると考えていた。しかし、それは本当か?

上下水道への投資の甲斐あって、先進諸国の都市は疫病の巣から健康の砦に変わった。自動車事故やピストル自殺による死亡リスクは都市生活者の方が低い。

ちなみに、世界10大都市域のランキングでは、ずっと日本の東京都市圏(人口3,670万人)が1位だ。



出典:日経サイエンス 2011年 12月号
「都市の力 知恵を生む場所」

祖父母に栄えた人類は、祖父母に耐えられるのか?


クラピネ遺跡(クロアチア)から発掘された「ネアンデルタール人」で、30年以上生きた者は皆無だったという。また、シマデロスウエソス遺跡(スペイン)においても、35歳以上生きた個体はマレであった(歯の摩耗具合をもとに推定)。

ネアンデルタール人すべての寿命が30歳前後だったかどうかは不確かにせよ、その寿命は現生人類よりもはるかに短かったことが推測されている。

もし、15歳で子どもを産むとしても、その親が祖父母になるのは30歳。そう考えると、少なくとも30歳以上まで生きなければ、子・親・祖父母の3世代は揃わない。つまり、30歳以上まで生きるのがマレだったネアンデルタール人たちには、「祖父母があまりいなかった」と考えられる(成人10人に対して、祖父母は半分以下の4人)。



一方、ヨーロッパにいた現生人類はネアンデルタール人よりも長寿であり、成人10人につき、祖父母層はその倍の20人は存在したと推定されている。つまり、我々現生人類は3万年ほど前から、「祖父母」という家族形態をとっていたと考えられるのである。これは動物界では極めて異例のことである。なぜなら、普通の動物は次世代を生み育てれば、親世代は死ぬのだから。

そして、その祖父母たちの知恵や伝承が、さらに現生人類の寿命を伸ばしたとも推測される。この長寿命化(高齢化)の好循環は現生人類の人口増をもたらしたであろうから、今の繁栄の礎にもなったものと思われる。

ところが現在、凄まじいまでのスピードで進んだ高齢化は、人類にとっての重い負担ともなりはじめており、かつての好循環は悪循環ともなりつつある。しかしまあ、高齢化により栄えた人類が、その高齢化で衰えようとしているのは、なんとも皮肉な因果ではあるまいか。



出典:日経サイエンス 2011年 12月号
「祖父母がもたらした社会の進化」

北欧のスマートな自動車と自転車


ストックホルム(スウェーデンの首都)の道路料金の課金システムは、市の中心部に入ってくる自動車のナンバー・プレートをカメラが自動で認識し、どこに行くかに応じて、一日に60クローナ(670円)を上限に、運転者に通行料金を請求する。

このシステムの導入によって、自動車が都市中心部を通り抜ける際の待ち時間が最大50%削減され、そのお陰で汚染物質の排出量も最大15%減ったとされている。



また、コペンハーゲン(デンマークの首都)の自転車には、後輪に赤い円盤のようなものが取り付けられているのを目にする。これは「コペンハーゲン・ホイール」と呼ばれるもので、この赤い円盤を手持ちの自転車に取り付ければ、電動アシスト自転車に変えられるという優れモノである。

この赤いホイールはスマートフォンによって制御されており、気温や湿度、大気汚染度などを測定して、リアルタイムの環境データベースに送信される。




抜粋:日経サイエンス 2011年 12月号
「都市の力 進化するソーシャルネクサス」

数学は「発明」されたのか、それとも「発見」されたのか?


もし、この世の「知性」が人間ではなく、「太平洋の深くにたった一匹で漂っているクラゲ」に宿っていたとしたら?

はたして「数の概念」が生まれ得たであろうか。数える対象ももたぬクラゲの知性に…。





このクラゲの”たとえ”は、「数学は『発明』されたのか、『発見』されたのか」という問いに基づくものである。人類は数千年間もこの問いの答えを見いだせずにいる。

「発明」となれば、「数」は人間が生み出した「道具」となるし、「発見」となれば、「数」は人間とは関わりのない「独立した存在」、言うなれば「神がつくり給うたもの」となる。



少なくとも、数学は人間の「経験」とは独立した「思考の産物」であると言うことはできる。数それ自体が実体を持つわけでもなければ、触れるものでもない。しかしそれでも、数学は現実世界を簡明かつ正確に表現する。

たとえば、量子電磁力学を用いて計算した電子の磁気モーメントの「理論値」は、最新技術によって「実験的に測定した値」と、1兆分のいくつというわずかな違いで一致していた(1.99115965218073)。

また、古い例をあげれば、スコットランドの物理学者・マクスウェルが書いた4本の方程式は、電波の存在を「予測」していた(1860年代)。実際に電波が検出されるのは、それから20年近くも後の話である。

なんと数学の記述する世界の正確なことか。「これほどうまく合致するのは、なぜなのか?」と、かのアインシュタインも頭を悩ませている。





「数学は発明なのか、発見なのか」

はたして深海の一匹のクラゲは、何かを数えようとするのであろうか?



ここで一つ注意しておくべきことは、たとえ数学がいかほど正確に世界を記述しようとも、まだまだ「数学的予測」が不可能な現実が山ほどあるという事実である。

たとえば、経済学では多くの変数を定量解析することに失敗している。もし、これが成功していたら、世界に景気後退などなくなるはずなのだから…。



しかし、逆に考えれば、数学に「限界がある」ということは、これは人間の「発明」に近いのかもしれない。ヒューマン・エラーは我々人間の得意とするところである。

まあ、ただ単に我々人間が「知らない変数」がまだまだたくさんあるだけの話かもしれないが…。そうであるのなら、我々はまだまだ「発見」する必要がありそうだ。





出典:日経サイエンス 2011年 12月号
「数学が世界を説明する日」

なぜ、ハワイのマウナケア山は「世界一高い」のか?

太平洋に浮かぶ熱帯の島・ハワイにありながら、山頂で雪が降る巨大火山。ハワイの人々はこの山を「マウナケア(白き山)」と呼んだ。マウナケア山の標高は4,205mだが、海中部分を含めれば高さ9,966m、「世界一高い山」となる。

エベレストの山頂が8850mと、地球上でもっとも高い位置にあることに疑いはないが、「山体の大きさ」となるとマウナケア山には敵わない。

エベレストはヒマラヤ山脈という巨大な山脈に乗っかていることもあり、山麓から山頂までの高さは3,000m強にすぎない。一方、マウナケア山の山麓は水深5,760mほどの海底にあり、山体としての大きさは9,966mにも及ぶのである。



出典:NATIONAL GEOGRAPHIC (ナショナル ジオグラフィック) 日本版 2012年 09月号
「ハワイ島マウナケア 太平洋にそびえる“世界一高い山”」

都市のマジック。プラス15%の法則


都市は人口が多いほど、「分け前」も多い。

たとえば、ある都市の人口が2倍になると、その平均所得は2倍以上になるという。ボーナス的に「プラス15%」が加算されるのだ。この法則は、人口4万の都市が8万になろうが、その100倍の400万都市が800万になろうが、変わることなく機能する。

一方で、都市が必要とする資源やエネルギーに関しては、これと全く逆の法則が成り立つ。都市の人口が2倍になれば、インフラ設備(電気・水道・道路など)が2倍必要となるわけではない。それよりも「マイナス15%」少なくて済むのだ。



都市の人口が増えるほどに、生産性が増して収入が15%上乗せされ、その一方で出費は15%もカットできる。これが「都市マジック」だ。

さらに、人が集まるほどイノベーション(革新)も加速する。古くはプラトンとソクラテスが都市国家アテネに、ガリレオとミケランジェロはルネサンス期の都市フィレンツェに、そしてスティーブ・ジョブズとウォズニアックはシリコンバレーの大都市圏に暮らしていた。都市におけるイノベーションの加速は、特許出願数の増加となって現れる。



なぜ、都市ばかりが不思議な動きを見せるのか?

人口が増えれば、非効率なことは排除される力が働く。たとえば、高い家賃を払っているのなら、それに応じて価値の高いものを生み出す必要が生じる。その結果、収益性が高まれば、都市の価値が上がり、家賃はもっと高くなる。そうなれば、さらに相当の価値を生み出さなければならなくなる。

こうしたフィードバック・メカニズムが、都市の富、そしてイノベーションを常に「人口増加分プラス15%」に保ち続けるのである。



出典:日経サイエンス 2011年 12月号
「少ない資源から多くを生み出す都市」

なぜ、都市の住民は長生きなのか?


都市は、住民たちに「健康」をもたらすようだ。

世界の大都市、ニューヨークの住民の平均寿命は、全米平均よりも「1年以上長い」。



それは、なぜか?

高齢者がなぜ長生きなのかは判然としないが、「若年層」に限っては、その理由は明白だ。

35歳未満の若年層における主な死因は「交通事故と自殺」だが、都市部ではそのいずれもが極めて少ない。ニューヨークの交通事故による死亡率は、アメリカ全体に比べて「70%以上低い」。

一杯ひっかけた後に地下鉄に乗るのは、酔っ払って車を運転するよりも、ずっと安全だということか…。



出典:日経サイエンス 2011年 12月号
「都市の力 革新のエンジン」

宇宙の育つ過程で増えていった元素


ビッグバンから始まった宇宙には、もともと「水素」とわずかの「ヘリウム」しか存在しなった。

それが恒星という元素の製造工場が、核融合によって「鉄」までの元素を作り出した。そして、それらが超新星爆発を起こして死ぬ時に、鉄よりも重い元素が生み出され、それが宇宙にバラ撒かれることによって、多様な物質世界が生まれたのだ。

超新星爆発の産物に、「ウラン」という鉱物もあるが、われわれはそのウランを核融合とは全く逆の「核分裂」させることによって、エネルギーを取り出しているのである。





出典:日経サイエンス 2011年 12月号
「宇宙を読む」

2012年9月10日月曜日

雷の落とし子たる「妖精たち」。地球と宇宙の大循環


雷のしきりに走り光る夜。

上空10kmを飛ぶパイロットたちが目にする「奇妙な閃光」があった。しかし、その閃光はあまりにも一瞬であるために、「目の錯覚だろう」と長らく思われていた。

そんな中、宇宙飛行士「イラン・ラモーン」は、宇宙からその閃光の「撮影」に成功した(2003)。

しかし残念ながら、彼の搭乗したスペースシャトル「コロンビア号」は、地球へと帰還する際に大爆発を起こし、乗員7名すべてが不帰の人々となってしまった。ところが、そんな大惨事にあってなお、その貴重な映像だけは、奇跡的に無事であった。


たかが白菜、されど白菜。本当は変わりたいその想い。


現在の日本では、「大根」「キャベツ」に次ぐ国内第3位の生産量を誇る「白菜」。

その普及発展は意外にも遅く、「明治時代」も後期に入ってからである。



日清(1894)・日露(1904)などの戦役を通じて、中国と日本を行き来した軍人たちは、中国で見つけた「珍しくも美味しい野菜(白菜)」の虜(とりこ)になった。

「こんな美味しい野菜ならば、ぜひ日本でも栽培したい」と思った軍人の一人が、「庄司金兵衛」。彼は第2師団に属する仙台出身の兵士であった。



さっそく中国から「白菜の種」を日本に持ち帰った庄司。郷里の友人たちにも、その貴重な種を配り歩く。

庄司の予想通り、「中国には、なんと美味い野菜のあることよ」と、友人知人に大いに賞賛されることとなる。



2012年9月4日火曜日

正しい文法を持つ「サル」、過去を考える「イルカ」。そこに見る人間知性のカギ。


「危ない!木が倒れてくるぞ!」

と、そのサルは叫んだのだ。



サル語のままに記すならば、

「Boom(ブーン), Boom(ブーン)!  Krak-oo(クラッコー), Krak-oo(クラッコー)!」となる。

※彼らは「キャンベルモンキー」という尾長ザルである。



2012年9月3日月曜日

消えゆくウナギ…、流され続けたウナギの行く先は…。


「山芋から化ける途中のウナギがとれた」

明治時代の新聞には、こんな奇妙な記事が載っている。山道でウナギを見つけた御仁は、きっと不思議に思ったのだ。「川を泳ぐはずのウナギが、なぜか地を這っている…」と。

そして、中国の言い伝えでも思い出したのだろう。「山芋が変じて、ウナギとなる」とかいう…。納得のいった御仁、「ああそうか、このウナギは山芋から化けたばかりで、川へと向かう途中だったのだ」。



じつは、ウナギが山道を這うのは珍しいことではない。体表にウロコをもたぬウナギは、皮膚の毛細血管が露出しているために「皮膚呼吸」もできる。それゆえ、身体に湿り気さえあれば、水中でなくとも一週間くらいは生き続けられるのだ。

洪水などで川から打ち上げられたとしても、ウナギは山中を這って、また元の川へと戻っていけるのである。明治の御仁はきっと、そんなウナギでも目にしたのであろう。