2012年11月20日火曜日
自分を食べる細胞
ヒトは食事で食べるおよそ3倍の量のタンパク質を「リサイクル」しているのだという。
自分の身体のタンパク質をアミノ酸に分解して、ふたたび新しいタンパク質へと合成しなおしているというのだ。
あたかも、「細胞が自分自身を食べる」かのように…
なぜ?
2012年11月11日日曜日
伊豆半島と富士山
関東と東海を分ける「伊豆半島」は、伊豆諸島などと同様、もとは火山島で、フィリピン海プレートにのって北上し、日本列島とぶつかって陸続きになった。
伊豆半島の部分は軽くて沈まないので、陸側プレートを押し続けている。一方、伊豆半島がのっているフィリピン海プレートの関東側は相模トラフから、東海側は南海トラフから沈み込んでいる。沈み込む方向は伊豆半島を境に少し異なり、関東側の相模トラフでは北北西、東海側の南海トラフでは西北西だ。
つまり、伊豆半島の根元部分あたりでは、全体としては北西方向に押す力が働き、同時にそれと直交する方向には引っ張り力、つまりプレートを引き裂く力が働いている。
実際、その引っ張り力によって、伊豆半島の付け根付近のプレートに裂け目ができ、そこが通り道となって地下深部からマグマが上昇、火山ができた。それが「富士山」だ。
抜粋:日経 サイエンス 2012年 02月号
「地震&火山 最悪のシナリオ」
2012年11月10日土曜日
大噴火を伴う巨大地震
歴史上、巨大地震は大噴火を伴ってきた。
約300年前の江戸時代、富士山が大噴火したのは、宝永地震(1707・推定M8.6)の49日後だった。
平安時代には貞観地震(869)の2年後に鳥海山が噴火した。その44年後には十和田湖がある十和田カルデラが大噴火。
大地震による地下の変動がマグマだまりを刺激して噴火に至るのではないかと考える専門家は多い。
ソース:日経 サイエンス 2012年 02月号
「迫る巨大地震」
巨大地震のスーパーサイクルが満期を迎える北海道東方沖
普通の大地震が何回か起きると巨大地震が一回起きるような発生サイクルを「スーパーサイクル」という。
宮城県沖では、平均約600年間隔のスーパーサイクルがあり、それが満期になって東日本大震災は起きた。
北海道東方沖では、平均約400年間隔のスーパーサイクルが満期になっているとみられている。
ソース:日経 サイエンス 2012年 02月号
「迫る巨大地震」
2012年11月9日金曜日
見たこともないアルコール飲料には要注意
アルコール飲料「フォーロコ」には、かつて「カフェイン」が入っていた。
しかし、2005年にこれを飲んで病院に担ぎ込まれる例が相次いで報告されたため、FDA(アメリカ食品医薬品局)は2010年、「アルコール飲料にカフェインを加えるのは違法である」と布告した。
確かに、フォーロコには「カフェイン」が入っていた。しかし、最近の研究によると、「カフェインはアルコールが身体に吸収される仕組みに影響を与えない」という話だ。つまり、フォーロコを飲んで病院に担ぎ込まれた人々は、「カフェインのせいで悪酔いしたわけではなかった」という可能性が浮上しているのである。
ではなぜ?
それは、フォーロコに「酒の味」がしなかったのが原因と考える研究者がいる。
人間の身体は、まだアルコールを飲まないうちから、アルコール摂取に備える「学習」をしている。たとえば、ビールを見たり、酒の匂いを嗅いだりすることで、身体が事前にアルコールに備えるのである。
ところが、見たこともない飲料や、酒の味のしない飲料に、思いもかけずアルコールが含まれていると、身体は「奇襲攻撃」を受けた状態になってしまう。そして、それが飲み過ぎ、悪酔いにもつながってしまうというのである。
なるほど、フォーロコの罪状はカフェインが含まれていたことではないかもしれない。
あまりにも「新しすぎたこと」が真犯人のようである。人間は誰もまだ「学習」していなかったのだ。
ソース:日経 サイエンス 2012年 02月号
「『フォーロコ』で悪酔いする理由」
知識とハサミは使いよう
「30歳までに科学に大きな貢献をしなかった人は、その後も決して科学に貢献することはないだろう」
かつて、アインシュタインはこう述べた。
しかし、ノーベル賞を見てみると、「受賞者が研究業績を上げた年齢が、どの分野についても『高齢化』していることがわかった」。
つまり、アインシュタインの頃とは時代が変わったということだ。
ところで、何が変わったのか?
「若者に利がある『理論研究』から、知識の集積を必要とする『実験研究』へと重点が移ったのが一因だろう」と見る専門家がいる。
だが、それでも「革命の誕生」には、「確立された知識がむしろ妨げとなる」可能性はある。
「この先に科学革命が準備されている場合、それを成し遂げるのは再び『若手』となるのだろう」
「知識」というのは両刃の剣。
それが武器になることもあれば、それが妨げとなることもある。
「知識とハサミは使いよう」ということか。
ソース:日経 サイエンス 2012年 02月号
「若くなくても」
人間の遺伝子を変えるかもしれない食物
まさか、「食べた食物が人間の遺伝子を変える」などということがあり得るのであろうか。
しかし、それを示唆する実験は実際にある。
「たとえば、米に由来するある特定の『マイクロRNA』は、血中から悪玉コレステロールの除去を調節している受容体に結合し、その働きを阻害していることがわかった」
「マイクロRNA」というのはヌクレオチドの短い配列で、タンパク質をコードしてはいないが、特定の遺伝子に作用して、その遺伝子にコードされたタンパク質の生成を阻害する。
南京大学のチャンらは、30人の被験者の血液を調べた結果、日常的に食べられている植物に由来する約30種類のマイクロRNAが、その血中に含まれることを突き止めた。
「マイクロRNAは、ビタミンやミネラルと同様、食物からもたらされる機能性分子なのかもしれない。今までは知られていなかったが…」
この発見は「共進化」にも力を与える。共進化というのは、ある生物種の遺伝的変化が別の種の変化を誘発する現象である。
たとえば、人間が大人になっても牛乳中のラクトースを消化できるようになったのは、牛が「家畜化された後」だった。つまり、人間を遺伝子を変えたのは家畜化された牛だった可能性があるのだ。
それと同様、「人間が栽培した作物も、人間を変えてきたのではないだろうか?」
「食べ物が身体を作る」という古くからの格言は、単なる栄養素としてだけの話ではないのかもしれない。もしかしたら、人間の細胞の最深部にある司令室、遺伝子にも入り込んでいるのかも…。
「自然の中で孤立して存在しているものは、なにもない」
ソース:日経 サイエンス 2012年 02月号
「食べ物から来たマイクロRNA」
2012年10月30日火曜日
2012年10月28日日曜日
プラスチックを作り出すハチ
「プラスチック」を作り出す「ハチ」がいるというのだが…。
それは「コレテス属(Colletes)」というハチの仲間で、地下に「人の小指ほどの太さのトンネル」を掘って暮らしているのだという。
このハチの地下室は、その内壁が「透明なセロファン状の物質」で覆われている。
絹糸状の繊維を敷き詰めた上に塗り込められたプラスチックは「実に頑丈」。研究室で分析しようにも、よほどに危険な薬品でなければ、化学的に分解できないほど。
このプラスチックは、明らかに生物が作り出した物質である。
しかし、なぜ「生分解性」がないのか?
このプラスチックを分解できる細菌はいるのであろうか?
もし、このハチの作り出す異常に強力なプラスチックが、他生物により分解・再生できるのならば、それは今後、人間も利用できる有力な素材となる可能性がある。
というのも、「ゴミ埋め立て場にプラスチックの容器がいつまでも残るのは問題だ」。
ソース:日経 サイエンス 2012年 02月号
「ハチが作り出すプラスチック」
2012年10月16日火曜日
宇宙最初の星と、そのカケラ。
「重元素は、星の核融合でしか生まれない。つまり我々は皆、星のカケラということになる(森山和道)」
著者が研究ターゲットを「宇宙で最初の星」にしたのは、それが「クリーン」であるから。余計な条件が少ないので、ある程度「理論だけ」でいけてしまうというのだ。
ただ、サイエンスの計算能力だけが上がっても、「人間のほうが数値データに意味づけできなければ、無意味」とも。
ソース:日経 サイエンス 2012年 01月号
「森山和道の読書日記」
なぜ髪の毛は白くなる? 半世紀以上の謎
なぜ、「髪の毛」には色んな色があるのか?
黒、金髪、ブロンズ…、そして白。
髪の毛の色は「メラニン色素」によって色づけされているのだが、「その色素細胞がどこから供給されるのか、『半世紀以上の謎』となっていた」。
ようやく解明されて判ったことは、そのシステムに「幹細胞」が関係していたということである。幹細胞というのは、これからどんな細胞にもなることができる、子どものように幅広い可能性をもった細胞のことだ(iPS細胞・ES細胞)。
それは、まだ職業が決まっていない学生のような状態であり、その仕事がまだ決まっていないのである。ちなみに、このニート的なフリーランスな状態を「未分化」という。一方、職業と仕事が決まってしまった状態を「分化」と呼ぶ。
すなわち、幹細胞というのは、分かれるか分かれないのか、その「分岐点」にいる状態なのだ。
分化というのは、別の言葉でいえば「年をとる(老化)」ということ。年をとるにつれ、細胞は「分化」して定職につくようになるのである。
これを髪の毛の根元(毛包)の中にある幹細胞に置き換えてみると、髪の老化というのは「白髪」や「脱毛」。これらは、細胞が分化してしまった結果として起こることなのだそうだ。
髪の毛に色が付くのは、毛包内に未分化な幹細胞が豊富にあるからこそ成せる業である。ところが老化とともに、毛包内の未分化な幹細胞が減ってくると、だんだん色素を作れなくなってしまう。そして、白髪になるのだ。また、脱毛にもつながるのだ。
では、もし毛包内の細胞を「初期化」、すなわち分化した細胞を未分化な状態にまで逆戻りさせることができたら…、真っ白だった髪の毛はクログロと、つるつるだった頭はフサフサに…、なるのだろうか?
もしそれが可能なら、ノーベル賞をとった山中伸弥氏の功績は、「豊かな頭上世界」を演出することにもなるのだろう。
ソース:日経 サイエンス 2012年 01月号
「幹細胞から白髪・脱毛のメカニズムを探る」
2012年10月8日月曜日
CD一枚分のヒトゲノム
ヒトゲノムの情報量は、およそ700MB(30億文字)。
つまり、だいたいCD一枚分。
生命の神秘の容量は、思ったよりも少ないものだ。
ソース:日経 サイエンス 2012年 01月号
「生命科学は21世紀の知的エンタメ」
2012年10月7日日曜日
ガンの過酷な3大治療
「この数十年間、ガン患者が受ける治療は主に3つ。手術、化学療法、放射線治療。
ガンを克服した患者はしばしば、この過酷な3大治療を『切られる(手術)・毒を飲まされる(化学療法)・焼かれる(放射線治療)』と辛辣に表現する」
ソース:日経 サイエンス 2012年 01月号
「がんワクチン新時代」
小型化するという進化。異色の恐竜男爵による大発見
「巨大化」を続ける恐竜がいた一方で、「小型化」していく恐竜も一部にはいた。
小型化(矮小化)していったのは、主に「島」などに住んでいた恐竜たち。彼らは島という「資源の限られた環境」に適応するために、身体のサイズが小さくなるように進化していったと考えられている(島與性・矮小化)。
この事実に初めて気がついたのは、恐竜男爵「ノプシャ」。
男爵との名が示すように、彼は実際にトランシルバニア(オーストリア・ハンガリー帝国)の貴族でもあった。貴族とはいえ、彼は宮廷に座していたばかりではなく、化石探しの冒険に明け暮れたり、第一次世界大戦時にはスパイとして暗躍していたという極めて活動的な人物だ。
宮廷生活を逃れることがよほど楽しかったのか、羊飼いの粗野な服に着替えたノプシャは、何ヶ月も、時には何年もの間、山中に姿を消したりもしていた。そのお供をしたのが、秘書兼恋人のドゥーダ。恐竜男爵は男色家でもあったとのことだ。
ノプシャの「恐竜が小型化していった」という説は、当時の研究者たちの固い頭には受け入れがたい斬新さがあった。そのために、「小さい化石は、単に『若くて成長途上』の状態にすぎない」と一蹴されてしまう。
そこでノプシャが考え出したのが、恐竜の骨を輪切りにして内部組織を解析する手法。樹木の年輪を数えるようにして、恐竜の年齢を推定したのである。
この解析の結果、ノプシャが宮廷の「裏庭」で見つけた小さな恐竜化石が、しっかりと「成体」に達していたことが確認された。つまり、恐竜の「小型化する進化」が証明されたのである。ちなみに、ノプシャが始めたこの解析方法は、現在でも標準的な手法として活用されている。
恐竜男爵ノプシャの化石探しの放浪は、第一次世界大戦が終わるとともに、その自由を奪われていく。
オーストリア・ハンガリー帝国が敗れたことにより、自領のトランシルヴァニアがルーマニアに割譲されて、所領と収入を失ってしまったのだ。それでもノプシャは今まで集めた恐竜の骨を切り売りしながら、自由奔放な旅を続けていた。
しかし、ついに貧窮の極まった恐竜男爵は悲しい決断を下す。恋人ドゥーダのお茶に睡眠薬を盛り、その頭を銃で撃ち抜き、そして、次には自らのこめかみを…。
最近の発見は、恐竜男爵ノプシャの科学的見解が「驚くほどの先見性」を備えたことを明らかにしている。
また、島に取り残された恐竜たちが「小型化」していったというノプシャの発見は、われわれ島国に住む日本人とも無縁ではないように感じられる。われわれの体格は欧米の人々よりもずっと「小型」なのだから…。
大きくなることばかりが進化ではなく、時には「小さくなる」という進化の方向性を示したのは、ノプシャの偉大なる功績である。それは、一方向にしか進み得ないと考えがちな西欧史観に異議を唱えた一石でもあったからだ。
われわれ日本人とて、決して劣っているわけではないのである。たとえ欧米人よりも小さいとはいえども…。
優秀なコンピューターほど、どんどん小型化を続けているではないか。
ソース:日経 サイエンス 2012年 01月号
「トランシルバニアの恐竜男爵」
2012年10月3日水曜日
タブーな実験
「肥満の母親に宿った『受精卵』を、ヤセ型の母親のそれと『交换』したら、生まれてくる子どもは、肥満かヤセか?」
これは人間が「やってはならない実験」の一つである。つまり、倫理上不可能な実験ということだ。
女性の子宮は「聖域」であり、その核心たる受精卵にはおいそれと手を触れるわけにはいかない(日本は受精から7日目以降をヒトとみなす)。
もっと恐ろしい実験は、ヒトとチンパンジーの交配だ。
ある科学者が「想像しうる限り、もっとも興味深い実験」と言ったというが、それは「もっとも恐ろしい実験」の一つである。
出典:WIRED (ワイアード) VOL.4 (GQ JAPAN2012年6月号増刊)
猛スピードで生き急ぐ大腸菌
人間の40万倍のスピードで生きるという「大腸菌」。
その一世代は、わずか30分。
恐るべき進化のスピードである。
出典:WIRED (ワイアード) VOL.4 (GQ JAPAN2012年6月号増刊)
2012年10月1日月曜日
暗黒に生きるショウジョウバエ
57年間もの間、「暗闇の中」で飼われてきたショウジョウバエがいるという。
その名も「暗黒ショウジョウバエ」。
命をつなぐこと、じつに約1,400世代。
今春、この暗黒ショウジョウバエの「嗅覚、視覚にかかわる遺伝子が変異している」ことが確認されたという。
暗闇という環境に適応し、進化した結果だ。
光を見ぬままに進む進化、今後どのような道へと進んでいくのだろうか?
出典:WIRED
「暗黒ショウジョウバエ」
2012年9月30日日曜日
ゾウが乗っても破れないサランラップ
もし、ゾウが乗っても破れないサランラップがあるとしたら?
もし、そのゾウが立てた鉛筆の上に乗って、全体重を一点に集中させたとしても、そのサランラップが破れなかったとしたら?
そんな奇跡のサランラップが「グラフェン」という素材なのだという。
ある日、こんなツイートが流れた。「サランラップ一枚の厚さのグラフェン・シートを突き破るためには、ゾウ一頭を鉛筆の上に立たせる必要があるだろう」
このツイートのネタ元は、ジェームズ・ホーン教授(コロンビア大学)だった。教授いわく、「グラフェンはこれまで測定されたうちで『最も強靭な素材』であり、構造用鋼より約200倍も強い」
「炭素」の原子からできているというグラフェンは、「丸めればゼロ次元のフラーレンに、巻けば1次元のナノチューブに、重ねれば3次元のグラファイトになる」そうだ。
その素材の素晴らしさもさることながら、一本の鉛筆の上に巨大なゾウを立たせようとした、無謀な表現こそが実に素晴らしい。
はたして、そのゾウは、体重7トンのアフリカゾウなのか、それとも4トンのアジアゾウなのか?
出典:日経 サイエンス 2012年 01月号
「至難の業 ある素材についての発言が提起する”重い”問題」
2012年9月27日木曜日
ヒマラヤ山脈を一日で越えるインドガン
「インドガン」という鳥は、高度9,000m、すなわち民間航空機とほぼ同じ高さを飛ぶという。
世界最高峰のヒマラヤ山脈を飛び越えるのも、たった一日だ。彼らは高度6,000mくらいなら7〜8時間は飛び続けることができるのである。
こうした大仕事を成し遂げるとき、インドガンは通常の10〜20倍もの酸素を必要とする。並のガンであれば、まず耐えられない。
大きな翼と大きな肺、高密度の毛細血管網と酸素を取り込むしっかりとしたヘモグロビン…。彼らの強みを列挙することはできる。しかし、その仕組みまでは人智で解明できない。
それでも、彼らは飛んでいる。
ヒマラヤの空を悠々と…。
出典:日経 サイエンス 2012年 01月号
「ヒマラヤ越え インドガンの秘密」
2012年9月26日水曜日
胎盤さまさま
「大方の人々は『胎盤』のことを、出産後に不要になって捨てられるものくらいにしか思っていない。しかし実のところ、胎盤の出現は進化史上の大事件であり、これによってコウモリからクジラ、ヒトに至る現生哺乳動物の大半が生まれてきた。
胎盤があれば、母から胎児へ素早く効率的に栄養を送れるので、脳の成長が速まり、出生時の脳は大きく成熟したものになる。これらは全て、現在の哺乳動物に見られる複雑な行動や社会性を発達させる上で、大きな意味を持った。
こうした胎盤を持つ哺乳動物を『真獣類』という」
抜粋:日経 サイエンス 2012年 01月号
「新たなご先祖様」
ウイルスたちの成せる業
マイマイガの幼虫、つまり毛虫は、ある種のウイルス(バキュロ・ウイルス)に感染すると、やたらと行動的になる。普段、天敵を恐れて夜しか活動しないのに、そのウイルスに感染してしまうと、昼間でも葉っぱの上に出てきて、木のてっぺんまで登ってしまうのだという。
毛虫を必要以上の行動に駆り立てるのは、ウイルスの繁殖のためだ。危険な昼間に行動する毛虫は死ぬ確率も高い。毛虫が死ねば、体内にいたウイルスは散り、新たな宿主へと感染することができるようになる。
さらに、そのウイルスは「脱皮」を阻害する。というのも、脱皮させてしまうと、毛虫はしばらく何も食べなくなってしまう。それではウイルスに不都合。脱皮をさせずにおけば、ずっとエサを食べ続けてくれる。
また、やたらと交尾させる別のウイルスもいる。そのウイルスに感染した蛾は、交尾した直後でも、新たなフェロモンを出して、すぐに別のオスを呼び寄せる。盛んに交尾を繰り返させることで、ウイルスの拡大するチャンスも盛んに増えるというわけだ。
ところで、人間はそれらのウイルスには感染しないのか?
もしかしたら、すでに感染しているのかもしれない。現代の人々は昼間のみならず夜間もしきりと活動を続け、食べなくていいほど食べ続ける。さらには、年がら年中、交尾にいそしんでいたり…。
ウイルスにとっては、宿主がたくさん行動してくれるほうが、繁殖の機会は増す。もちろん、たくさん食べてくれた方がいいし、たくさん交尾してくれた方がいい。
はたして、現代人はウイルスに操られているのだろうか?
人間の欲望の正体は?
出典:日経 サイエンス 2012年 01月号
「毛虫を操るウイルス」
2012年9月24日月曜日
宇宙で太陽光発電をする夢
宇宙で太陽光発電を行い、その電力を無線で地球に送る。それが「宇宙太陽光発電」である。
太陽光を集めるのは、赤道上空3万6,000kmの静止軌道上にある人工衛星。宇宙での太陽光の強さは地上の「2倍」。日照時間は地上の「4〜5倍」。その発電効率は地上の「10倍」も高いとされている。
つくった電力はマイクロ波などに変換して無線で地球に送る。マイクロ波は雲をすり抜けることができるため、「送電ロス」はほとんどないという。
ただ、その精度が問題だ。送電角度が0.01°ズレるだけで、地上では1kmもズレてしまう。「ゴルフで4km先からホールインワンを狙うくらいの精度が必要」と篠原教授(京大)は語る。
発電コストはどうだろう? 長期間、安定稼働すれば、1kW時あたり8.5円と、水力や風力などの自然エネルギーよりも安くなるという。
しかし初期コストが巨額となる。およそ1兆2,400億円。残念ながら、この大きすぎる初期投資を負担できる電力会社や国家は、「今のところ存在しない」。あら?
ちなみに、必要資材を宇宙に運ぶには、日本の主力ロケットH2Aを1,000回も打ち上げる必要があるそうだ。あら?
それでも、篠原教授はこう言い切る。「長距離の無線送電に必要な技術はそろっている。今の技術水準でも宇宙太陽光発電所の建設は可能だ」。
ただ、大金と根気さえあれば…。
出典:日経 サイエンス 2012年 01月号
「宇宙太陽光発電 研究が本格化」
独特な素粒子・ニュートリノ
「ニュートリノ」には、他の素粒子とは色合いの異なる面が多い。
たとえば、ニュートリノはプラス・マイナスの符号を持たない粒子であり、その「正」と「反」の区別がもともと明瞭でない。
また、素粒子は一種の自転(スピン)をしており、「右巻き」「左巻き」があるが、他の素粒子は粒子にも反粒子にも、それぞれ右巻きと左巻きがあるのに、ニュートリノは「左巻き・ニュートリノ」と「右巻き・反ニュートリノ」しか今のところ見つかっていない。
出典:日経 サイエンス 2012年 01月号
「粒子と反粒子の同一性を検証へ」
赤ワインは、本当に寿命を延ばすのか?
フランス人はなぜ、心筋梗塞にならないのか?
あんなに脂っこいモノばかり食っているというのに…。
これは「フレンチ・パラドックス」と呼ばれる現象である。
そこで注目されたのが「赤ワイン」。
フレンチ・パラドックスは、ポリフェノールの一種「レスベラトロール」に、その秘密があると考えられるようになった。
赤ワインに含まれる「レスベラトロール」が、サーチュイン遺伝子という「長寿」を司る遺伝子を活性化させるという結果が報告された。
ところが一方では、それを否定する論文も発表される。
「サーチュイン遺伝子(sirtuin)は、本当に寿命を決めているのか?」
赤ワインの効用や、いまやふたたび「樽の中」に戻された。
出典:WIRED (ワイアード) VOL.4 (GQ JAPAN2012年6月号増刊)
「赤ワインは魔法の秘薬か? 長寿をめぐる今時の知見」
2012年9月23日日曜日
尖閣モグラは悠々と
「これほど『謎』の哺乳類はいない」
それは「モグラ」。こんなに身近なのに…? 謎?
モグラの交尾や出産は、いまだ一例も世界で観察されたことがない。自然界においても、実験室においてもだ。
「分布」にも謎が多い。なぜか「南半球」にはまったくいない。日本では、「北海道」にまったくいない。北海道より北のロシア、そして南の青森にもモグラはいるのに、なぜかその間の北海道にはいないのだ。
ちなみに、今一番ホットな「尖閣諸島」にもモグラは住んでいる。それを「尖閣モグラ」という。
「モグラにはまった」というモグラ博士、川田伸一郎氏は残念がる。「是非とも現地に行きたいが…、こればかりは難しい」
幸か不幸か、尖閣モグラの謎ばかりは、しばらく解けそうもない。まあ、当のモグラにとっちゃ、知ったことでもない。陽の目を見ようなどとは、小さな鼻の先ほども思っていないだろう。
彼らは暗いところが大好きさ。
謎のままで結構さ。
出典:日経 サイエンス 2012年 01月号
「謎に包まれたモグラ その生き様を探る」
ハンバーグ一個、2,000万円なり
「お肉」は人工的につくれるのか?
そんなチャレンジをしているオランダの研究グループがある。「人口培養食肉」の開発だ。食肉の基とするのは「幹細胞」。それを無血清培地で培養するというもくろみ。
しかし、肉はつくれてもコストは莫大。
現在のところ、ハンバーグ一個が2,000万円だとか…。
「未来の『お肉』は食い放題?」
ゲノム解析一時間一万円なり
Googleの創始者、セルゲイ・ブリンが「パーキンソン病」にかかる可能性が高いことは、よく知られている。ゲノム解析の結果、判明したことだ。
そのため、ブリン本人が積極的に医療、バイオ分野に関わるようになったのはもちろん、その夫人もアメリカきってのゲノム解析サービス企業「23andMe」の共同創業者となっている(Google Venturesが支援)。
しかし、ヒトゲノム(遺伝子)の解読によって、病気の原因はどれくらいわかるようになったのだろうか?
たとえば、自閉症の原因は「遺伝子の異常」だと考えられているが、原因となる遺伝子は未だに見つかっていない。
ちなみに現在、ヒト1人のゲノムを1万円、1時間で解読することも夢ではないという。
出典:WIRED (ワイアード) VOL.4 (GQ JAPAN2012年6月号増刊)
「自閉症とDNA」
2012年9月22日土曜日
自らの肺をつぶすアシカ
なぜ、アシカは「潜水病」にかからないのか? 300mも潜水するというのに…。
人間であれば、「減圧症」という潜水病にかかり、時には死んでしまう。それは、水中深くいる時に、その水圧で血液中の「窒素」が圧縮されており、急に浮上すると、その縮んでいた窒素が急速に膨張してしまうためだ。
さっそく、アシカに機器を取り付け、潜ってもらおう。
するとそのアシカ、水深225m付近で、意図的に「肺を潰していた」。それは、血液に取り込まれる「窒素」を遮断するためだという。ちなみに、潜水をする他の哺乳類でも同様に、肺を縮めることが知られているそうだ。
肺を潰したまま、水深300mまで潜水していったアシカ。今度は一転、再浮上。
すると、水深247m付近で、今度はふたたび肺を元に戻していた。
自然界には、アシカよりも深く潜水できる動物はたくさんいる。
たとえば、皇帝ペンギンは水深500m以上、ゾウアザラシは水深1,500m以上だ。
潜るようにできている動物たちは、そもそもの身体のシステムがそうなっているということだ。
出典:AFP
「アシカの潜水病を防ぐメカニズムを解明、アメリカ研究」
無知を知ったDNA解読
世界初のヒトゲノム解読には、30億ドル(2,400億円)を超える予算と、10年もの歳月がつぎ込まれた。
しかしその結果たるや、ヒトゲノムの実に98%が「わけのわからない謎の領域」だったという事実のみである。
ゲノムというのは、DNAに刻まれた生命の情報のことであり、そこには身体の材料となる「タンパク質」の作り方が記されていると思われていた。
確かにそうだったのだが、タンパク質の作り方を記している部分は「たったの2%」。そして、残りの98%の領域からは、60年もの間、単なるDNAのコピーとしか思われていなかった「RNA」が生み出されていたのである。
ある仮説によれば、DNAは情報を保管しておくための「図書館」にすぎず、本当の主役はRNAだということになる。
DNAは情報の記憶しかできないが、RNAはその記憶に加え、タンパク質のように酵素として働くこともできる。いまはまだ分からないことの多いRNAだが、その働きの多彩さはDNAの及ぶところではない。
それゆえ、最初の生命を生み出したのはDNAではなく、RNAだったのではないかという「RNAワールド仮説」なるものも提唱されている。コピーだと思われていたRNAが実は元データで、DNAの方がバックアップだったのか?
DNAさえ解読すれば、生命の神秘が明かされるとおもっていた人類。
ところが、それは単なる入り口にすぎなかったようだ。
まだまだ未知のRNA大陸、その探検は口火を切ったばかりだ。
出典:WIRED (ワイアード) VOL.4 (GQ JAPAN2012年6月号増刊)
「生命の『コード』は謎だらけ」
2012年9月21日金曜日
「シェアしたいこと」があったんだ。Tumblr
「ぼくは作家じゃない。書けないんだ。
有名ブロガーのように楽しめない。でっかい空白のテキスト・ボックスを前にして、いつも躊躇していた。
だけど、ぼくには『シェアしたいこと』があったんだ」
「Tumblr(タンブラー)」の生みの親「デイヴィッド・カープ(25歳)」
Tumblrがローンチしたのは2007年。「ブログを簡単にする」という文句で売りだされた。その時、デイヴィッド・カープは19歳。
あれから5年、そのアクセス数は今や「WikipediaやTwitterをも凌いでいる」。Tumblrを越えるのはFacebookのみ。オバマ大統領も昨年10月からTumblerを使って選挙キャンペーンを開始している。ちなみに、「フォロー」や「リツイート」などは、Twitterの2年前にTumblrが開発した機能だ。
Microsoftの上級研究員、ダナ・ボイドはこう言う。「TumblrがFacebookを補うような存在になったのは、TumblrにはFacebookのような押し付けがましい『わたしたちは友人じゃないといけない』的なものを必要としなかったからです。Facebookに不満を募らせていた人は大勢いたのです。」
「カッコいい静電気防止用のブレスレットをして、一日中コンピューターを分解する人たちに憧れまくっていたんだ」というカープは、ティーンエイジの時に独学でHTMLを学んだ。彼の野望が「多くの高校生たちとは違っていた」こともあり、カープは15歳で学校を中退している。
「ひょろ長くてシャイな小僧」。16歳のカープを、ジョン・マロニーは思い出す。「彼はたった数時間で、美しくて考えもつかないような機能をもったミニサイトをつくってしまった。ホントに16歳?って感じだったよ」
2010年11月、カープは社員を増やすことを考えた。その当時、Tumblrには14人ほどのスタッフしかいなかった。
ところが、Facebookのマーク・ザッカーバーグはそれに反対した。「YouTubeが16億ドルで買収された時、スタッフは16人だったじゃないか。頭を使うことを忘れちゃいけないよ」と言って。
「ボルノは、かつて全てのトラフィックの10%を占めていたけど、今では約3〜5%だよ」とカープは言う。「規制するつもりもないしね。Tumblrはポルノにうってつけのプラットフォームだと思うし、ポルノを道義上否定する考えも持ってないから」
25歳の早熟な天才の見据える未来は?
出典:WIRED (ワイアード) VOL.4 (GQ JAPAN2012年6月号増刊)
「A view from the top」
自分が美しいと思うものへのこだわり。Pinterest
Pinterest(ピンタレスト)の共同創業者「ベン・シルバーマン」曰く。
「ぼくは医学生だったんだけど、やりたいことを追求するために中退して、Googleに入ったんだ。
その後、Pinterestの開発を始めたんだけど、当時はリアルタイム・フィードが人気で、Pinterestのようにタイムレスなサービスは敬遠されていたんだ。
デザインも100万人のためではなく、まわりの10人にとって便利なことを心掛けた。そんなこともあって、スタートから9ヶ月くらいはユーザーが一万人に届かなかったけど、ユタ州であったデザイン・カンファレンスで注目されて火がついたんだ。
トレンドに惑わされずに、自分が美しいと思うものに固執して良かったよ!」
引用:WIRED (ワイアード) VOL.4 (GQ JAPAN2012年6月号増刊)
「See SXSW and die happy」
2012年9月20日木曜日
宇宙の96%は未知の物質・エネルギー
「恒星」というのは宇宙を構成する基本的な天体であり、われわれは20世紀の半ばまで、恒星もしくはその集団である銀河が、宇宙の物質の大部分を占めていると思い込んでいた。
ところが、恒星の運動を調べてみればみるほど、どうもおかしい。ニュートンの運動法則を適用すると、銀河には恒星以外の「まったく光を発していない物質」が大量になくてはならなくなってしまうのだ。
その存在するが目には見えない物質は、のちに「暗黒物質(ダークマター)」と呼ばれるようになった。
さらに調べていくと、どうやら宇宙は膨張を続けているだけでなく、その膨張は「加速」しているらしい。そして、その加速源と目されているエネルギーが、「暗黒エネルギー」とのことである。
20世紀半ばまでは知られてすらいなかった、暗黒物質と暗黒エネルギー。じつは、この両者で宇宙の96%を占めているらしいこともわかってきた(暗黒物質23%、暗黒エネルギー73%)。
なんとなんと、かつては宇宙の大部分を占めていると思われていた恒星と銀河は、宇宙のたった4%というマイナーな存在だったのである。
出典:日経サイエンス 2011年 12月号
「宇宙を読む」
人命の犠牲をともなうエネルギー生産
過去30年間における「発電にともなう死者数」をみると、先進国では「石炭」利用にともなう被害が最も大きい。とくに「採掘段階」が最も危険だ。石油と天然ガスでは、事故の大半が「配送段階」で起こっている。原子力では「発電段階」のリスクが大きい。
年間発電1億kWあたりの死者数(生産段階)
石炭………12.00人
石油………9.37人
天然ガス…7.19人
原子力……0.73人
水力………0.27人
風力………0.19人
太陽電池…0.02人
スイス、パウル・シェラー研究所調べ
しかし、人的被害で最も大きな部分を占めるのは、直接的な「事故」ではなく、より間接的な「環境汚染」によるものだという。たとえば、化石燃料を燃やす発電所から排出される「微粒子」による大気汚染は、深刻な健康被害をもたらしている。
肺炎(入院件数) 4,040
心血管障害(入院件数) 9,720
早死に 3万100
急性気管支炎 5万9,000
慢性気管支炎 60万3,000
仕事の欠勤 513万
以上、アメリカにおける1年あたりの平均件数。
出典:日経サイエンス 2011年 12月号
「エネルギーに伴う人的犠牲」
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